美しい日本の住まい
スダレ・ヨシズ (後編)
「葦簀(よしず)には浴衣(ゆかた)が似合う ----- 野平洋次 ----- 」
 伝統木造住宅などは結婚式の晴れ着のようなもので、庶民の日常とは無縁のものだと言い張った若者に私は「浴衣(ゆかた)もあるよ」と言ってみた。
 浴衣のような住宅とは、手頃な材木で作った身の丈にあった家屋のことである。時を経れば木材を洗い清め、つくろいをして気分を変えることができる。解体して同じ材で建て直す(仕立て直す)こともできる。浴衣映えする人がいるように、その家で映えている家人には、住まいを使いこなす所作と心意気が伴っている。住まいは寝に帰るだけの場所ではない。
 在来工法という言葉がある。その土地固有の技術としてある日本在来の木造住宅を再発見して欲しいと思う。「和室」を世界遺産にという声のかかるご時世だが、住居が在来種であるか否かを見分けるとしたら、夏姿に模様替えできるか否かも重要なポイントだろう。
 スダレよりもさらに庶民的なのはヨシズである。
 夏の海水浴場ではヨシズに囲われた海の家が大活躍する。葦簀とも葭簀とも書く。葦(あし)は足の届く水位に生えるからアシといったととか、善し悪しの悪につながるから葭(よし)と書くことを好むとか、葦(あし)は茎の詰まったもので虫がつきやすく葭(よし)は空洞が多い茎のことで別物だとか、諸説ある。
 ちなみに葭簀(よしず)の簀(す)は「間を空ける」意味が語源にあり、「間隔を置いて並べたもの」をいう。簀子(すのこ)や簀巻(すまき)の簀である。
 葭簀(よしず)は「立て簾(すだれ)」ともいわれる。「立て簾(すだれ)」は「たてす」とも読む。
  人それぞれの呼び方や書き方があるのがヨシズであるが、その用途に変わりはない。屋外で窓や縁側を隠すように立てかける。日除けとして使う。日差しをさえぎりながら風を通す。
 このヨシズを25年も前にイタリア・ミラノで見た。旧市街にある9階建て集合住宅のペントハウスで、道路を隔てた向いの住居からの視線を遮る目隠しとしてヨシズが立てかけてあった。窓からルーフテラスに向かって鉄骨のフレームがありヨシズを上にも横にも並べていた。
 同じ建物の屋上にある隣りの住居にも、そして道路を隔てた向かいのペントハウスにもヨシズがあった。この界隈にヨシズを持ち込んだ日本人がいたという。それをまねたイタリア人たちがいて地上30mにヨシズが並び小鳥たちが行き来するペントハウスの空中界隈が出現した。
 イタリアの窓にはガラリの両開き扉という定番があるが、窓辺の草花に調和してヨシズもよく似合っていた。優れた暮らしの道具は万国共通に認められるということだ。
 昨今、日本の高層マンションのベランダでもヨシズを見かけるようになった。直射日光を遮るだけでなく床からの照り返しを遮る。周囲からの視線も遮って、軒下のような空間が一気に室内に割り込んでくる。ヨシズに水を打っておくと通る風が外気温より幾分低くなる。夕立のあと、ヨシズの隙間から雨雫が落ちて涼しさが倍増する。
 昨今の住宅では、ヨシズが住まいを楽しむ手軽なアイテムとなっている。
ポリエチレン製や麻布製など竹製にこだわらない製品がある。スクリーンを巻き上げる方式のものなどが通販で安価に売られている。「日本の風情を愉しむジャパニーズスタイル」というコピーもみられる。
 ただし風に飛ばされない工夫が欠かせない。そして不要になった時の収納場所も欠かせない。
 ともかく軒が深く土庇や縁側があり建具の多い納涼的な日本家屋の構造が、ヨシズ・スダレを産み出した。
 透けたところから外が見えるが、外からは室内は見えにくい。表通りや隣家からの視線を遮ることができる。開放していながらも室内を露出しない。 腰高の窓辺にはスダレ、庭につながる掃き出し窓ではヨシズが働く。
 日本にはヨシズ・スダレとキンチョウの夏がある。
( Copyright © 2019 野平洋次 )
「葦簀(よしず)には浴衣(ゆかた)が似合う ----- 有限会社みゆき設計 吉川みゆき ----- 」
正しい家づくり研究会会員の設計した「スダレ・ヨシズのある家」
「調布の併用住宅」
 1階は福祉施設、2階は賃貸住宅、3階は自宅というそれぞれ異なる用途からなる併用住宅です。大通りに面して福祉施設の窓があり、人通りを感じつつ歩行者の視線を妨げられる工夫が欲しいとのご要望へのご提案は、三層を弧を描くように繋げるようなイメージの木目調ルーバーでした。
 スダレやヨシズを現代風にアレンジしたルーバーは、外からの視線を遮るだけでなく、窓から差し込む光を優しく室内に届けてくれる役割もしています。人が集まるようなキッチン・ダイニングやリビングでも積極的に採用していきたいものです。
設計担当:有限会社みゆき設計 吉川みゆき

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