美しい日本の住まい
格子 (前編)
「格子は伝統の建具 ----- 野平洋次 ----- 」
 “格子“という言葉でどんな図像が目に浮かぶだろう。あの人に問うてみたい。
 私は今、3つの格子を思い浮かべている。
 一つは、多くの住宅作品を残した宮脇檀(1936〜1998)がデザインした格子の玄関戸である。
 縦横に組子を備えた重厚な趣を持つそれは、鉄筋コンクリート造の住まいに風格と和らぎを与えていた。この建具は単品として製品化され販売された。宮脇作品に「風を透かす、通す」をテーマにして格子を使ったものがある。
 戸の始まりは古代の蔀戸で、縦横に組子を渡した格子戸があった。明かり採りと通風、そして防犯のための建具が古くからあった。
 世界最古の木造建築である法隆寺の伽藍に、角材を菱形上に並べた窓がある。連子(れんじ)窓として知られる。真正面から見ると角材の対角線が見付け寸法となり板格子のようである。見る角度によって格子の隙間間隔が変わる。
 二つ目は、城下町の風情としての格子戸である。
 「格子戸をくぐり抜け 見あげる夕焼けの空に・・・」1971年安井かずみ作詞、平尾昌晃作曲の歌を小柳ルミ子が歌って大ヒットした渦中に私の青春があった。どこの城下町というのではなく、どこにいっても城下町を歩くときにはこの歌が口から出てくる。
 あるときとある城下町並をそぞろ歩きしていたら、まじかに人の気配を感じてどっきりしたことがある。すぐそばの格子窓に人がいたのだ。中が暗くはっきりしなかったが綺麗な女性に見えた。
  物見窓というのがある。内から外を見るために取り付けた窓のことである。城下を見下ろす物見窓は漆喰を塗り込めた格子でお城の意匠となっている。武家屋敷の物見窓は塀の外をうかがうための窓である。物見の姿を隠すために格子がはめてある。物見の役は格子番とも呼ばれたそうだ。
 茶室では、露地にある中潜りの脇壁の窓や、水屋から内庭を見る窓のことを物見窓という。来客の動静を観察する窓である。
 三つ目は、南イタリアで見かけた格子戸だ。通りに面した共同住宅の入り口に連続して2つ並んでいた。その中庭に続く潜り戸は鉄格子で屋根には瓦が葺いてあった。この表構えに日本の町家の匂いがした。
 格子の内と外では全く領域が異なる。しかしそこでは景色が透け、風が通り、固有の姿が映し出される。
 建具という機能を持った建築部品でありながら、格子は伝統のディテールとともに様々な風景を作り出している。
後編につづく Copyright © 2020 野平洋次 )
「格子は伝統の建具 ----- HAN環境・建築設計事務所 松田毅紀 ----- 」
正しい家づくり研究会会員の設計した「コートデコ洗足レイクサイド」

[コートデコ洗足レイクサイド]格子建具の実例
 洗足池公園に北側に面するテラスハウス(重層長屋)[コートデコ洗足レイクサイド]において、1、2階エントランスポーチの前に防犯や通風に配慮した人工木材の縦格子戸を設置しています。住戸と道路、公園の間に縦格子戸による中間領域を設ける事により、街並に配慮しつつ、プライバシーを確保しながらの開く暮らしを実現しています。

設計担当:HAN環境・建築設計事務所 松田毅紀

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