美しい日本の住まい
長押 (前編)
「伝統のディテール ----- 野平洋次 ----- 」
「長押」と示されて、すぐに実体をイメージできる人が少なくなっている。かつては普通の木造住宅では必ず見られるものだった。見たことがないものを想像するのは難しい。
長押はナゲシと読むが漢字で示すと読めない人も多い。床の間をユカノマ、根太をネブト、と読んでしまう建築学生は何人もいた。昔ながらの住まいにある床の間(とこのま)、根太(ねだ)は現代の住まいから消えて伝統的な木造建築用語としてお蔵入りしている。
わからない言葉を聞くと即座にネットで検索するのが現代だ。長押を(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)で検索してみる。
「長押(なげし)とは、日本建築に見られる部材で、柱を水平方向につなぐもの。鴨居の上から被せたり、柱間を渡せたりするように壁に沿って取り付けられる。」 とあるが、初学者は絵に書いて具体的に示してもらわないと理解できないだろうし、有識者は日本建築の定義にこだわったり、つなぎ方、被せ方、渡せ方に疑問を持ったりするだろう。
もう少し長押の背景を知りたいとなれば、この連載でなんども引用している「日本建築辞彙」(2011新訂)がある。そこでは「柱面へ取り付けたる、長き横木をいう」とまず説明される。そして長押が作る言葉として「半長押・胴長押・上長押・地長押・天井長押・廻り縁長押・内法長押・化粧長押・足元長押・切り目長押・蟻壁長押・腰長押・下長押」が挙げられそれぞれの説明がある。
長押は多様である。
初源をたどってみよう。
テキストは「伝統のディテール」(1972彰国社)。構成・執筆の広瀬鎌二(1922〜2012)は東大寺再建に尽くした重源の研究者でもある。この本の協力者として日本建築研究の碩学、伊藤延男・鈴木喜吉の名前がある。日本建築を学びたいものにとって画期的な本であった。
この「伝統のディテール」にある長押の説明を要約すると、
・長押には内法長押・腰長押・地長押の別がある。
・初期には柱脚をつなぐ地長押はあっても、長押で横力を受けるという考え方はない。
・内法長押に相当する初期のものは、出入り口の上に鼠(ねずみ)走りと呼ばれる薄い板が取り付けられるだけであった。
・横力を受けるための構造材として有効なことがわかってくると長押の背が高くなり、材も角材が使われるようになる。
・貫の発達とともに再び長押は装飾材となり、見え掛かりだけのL字型断面となる。
これでようやく長押とは何者かがわかった気がした。
初源は薄い板だった。それが構造材としての横木となった。しかし貫工法の完成とともに長押の構造材としての役割は終わり、薄い板の装飾材として生き残った。
構造体としての長押は、柱を両側から挟んで柱面に取り付けたり、横木を柱に押し付けたりした。このような横力に対応するこの長押に代わって、1列に並んだ柱に穴をあけ横木(貫)を通すことで柱をつないだのが貫工法である。貫は長押から発展したものなのだ。
伝統技術は長い年月をかけた試行錯誤の結果、完成された型を生み出す。貫工法・和小屋組・木造軸組・土壁工法・石場建てなどの伝統構法は、日本列島の風土に適合する知恵と工夫が型となったものである。その型を生み出すには長い時間が必要だった。
ではなぜ構造材としての長押が不要となったのに、装飾材としての内法長押が今に生き残っているのか、後編で考えることにする。
長押はナゲシと読むが漢字で示すと読めない人も多い。床の間をユカノマ、根太をネブト、と読んでしまう建築学生は何人もいた。昔ながらの住まいにある床の間(とこのま)、根太(ねだ)は現代の住まいから消えて伝統的な木造建築用語としてお蔵入りしている。
わからない言葉を聞くと即座にネットで検索するのが現代だ。長押を(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)で検索してみる。
「長押(なげし)とは、日本建築に見られる部材で、柱を水平方向につなぐもの。鴨居の上から被せたり、柱間を渡せたりするように壁に沿って取り付けられる。」 とあるが、初学者は絵に書いて具体的に示してもらわないと理解できないだろうし、有識者は日本建築の定義にこだわったり、つなぎ方、被せ方、渡せ方に疑問を持ったりするだろう。
もう少し長押の背景を知りたいとなれば、この連載でなんども引用している「日本建築辞彙」(2011新訂)がある。そこでは「柱面へ取り付けたる、長き横木をいう」とまず説明される。そして長押が作る言葉として「半長押・胴長押・上長押・地長押・天井長押・廻り縁長押・内法長押・化粧長押・足元長押・切り目長押・蟻壁長押・腰長押・下長押」が挙げられそれぞれの説明がある。
長押は多様である。
初源をたどってみよう。
テキストは「伝統のディテール」(1972彰国社)。構成・執筆の広瀬鎌二(1922〜2012)は東大寺再建に尽くした重源の研究者でもある。この本の協力者として日本建築研究の碩学、伊藤延男・鈴木喜吉の名前がある。日本建築を学びたいものにとって画期的な本であった。
この「伝統のディテール」にある長押の説明を要約すると、
・長押には内法長押・腰長押・地長押の別がある。
・初期には柱脚をつなぐ地長押はあっても、長押で横力を受けるという考え方はない。
・内法長押に相当する初期のものは、出入り口の上に鼠(ねずみ)走りと呼ばれる薄い板が取り付けられるだけであった。
・横力を受けるための構造材として有効なことがわかってくると長押の背が高くなり、材も角材が使われるようになる。
・貫の発達とともに再び長押は装飾材となり、見え掛かりだけのL字型断面となる。
これでようやく長押とは何者かがわかった気がした。
初源は薄い板だった。それが構造材としての横木となった。しかし貫工法の完成とともに長押の構造材としての役割は終わり、薄い板の装飾材として生き残った。
構造体としての長押は、柱を両側から挟んで柱面に取り付けたり、横木を柱に押し付けたりした。このような横力に対応するこの長押に代わって、1列に並んだ柱に穴をあけ横木(貫)を通すことで柱をつないだのが貫工法である。貫は長押から発展したものなのだ。
伝統技術は長い年月をかけた試行錯誤の結果、完成された型を生み出す。貫工法・和小屋組・木造軸組・土壁工法・石場建てなどの伝統構法は、日本列島の風土に適合する知恵と工夫が型となったものである。その型を生み出すには長い時間が必要だった。
ではなぜ構造材としての長押が不要となったのに、装飾材としての内法長押が今に生き残っているのか、後編で考えることにする。
(後編につづく Copyright © 2020 野平洋次 )
「伝統のディテール ----- みゆき設計 吉川みゆき ----- 」
正しい家づくり研究会会員の設計した「長押のある和室」
長押のある和室の実例
リビングの一角に設けた6畳の和室です。当初お施主様は、長押なしのすっきりとした和室を希望されていましたが、最終的に長押を追加することとなりました。こぢんまりとした空間ではありますが、床の間、障子、襖、押入、杉板天井、そして長押のある伝統的で品格のある和の空間となりました。来客の多いご家族ということもあり、お客様をお持てなしする場として重宝されているようです。
設計担当:みゆき設計 吉川みゆき