美しい日本の住まい
座敷 (前編)
「しつらい ----- 野平洋次 ----- 」
 昨年10月、平凡社から「和室学」(服部岑生・松村秀一編集)が出版された。内容紹介では「日本家屋のシンボルとも言える和室の、将来性と存在意義を徹底的に検証する一冊」と記されている。であるならば「美しい日本の住まい」を連載している筆者には必読の書である。ネットで検索してみた。すると早速定価の倍の値段がついていた。一家に一室の和室すらなくなりつつある現代で、和室に特段の関心を持つ読者がいるのかもしれない。コメント欄に「和室の定義は難しい」「和室の世界遺産登録を目指して専門家たち頑張れ」「和室の来し方行く末について一般読者向け書物としてこれだけ充実した本なはい」などなど。筆者にはこのネット価格での購入はしばし様子を見ることにした。
 しかし「和室学」という言葉は気にかかる。各種国語辞典では和室とは日本間・和風に作った部屋・畳を敷き直接座れるようにした部屋、などとある。 
 ちなみに類似語「座敷とは」でネット検索してみる。
 「座敷とは日本の一般住宅において日当たりや風通しなどが最も快適に過ごせる和室のこと、客間として設定や宿泊などに使われる和室、表座敷ともいう」と不動産用語集にある。和室という概念の中に座敷がある。
 座敷の存在価値は晴れ着のようなものだ、という議論を若者たちとしたことがある。今時、和服なんて日常生活では必要ありませんが、成人式や結婚式やなにかで紋付袴や振袖の和服の正装はしてみたいのです。座敷はそれと同じです。といわれ納得させられた。
 座敷飾り(床飾り)というものがある。書院造りの床の間・書院・床脇棚を各種道具で飾る。室町時代以降その形式ができる。これを現代で見ようとすれば、各地に残っている宮家や大名家の御殿のしつらいで堪能できる。
 しつらいとは設け飾る事であるが、古くは室礼(しつらい)と書いて儀式などの晴れの日に寝殿や庇に調度を立てて室内を装飾することを意味する。
 筆者の記憶に強く残っている座敷のしつらいがある。
 猪苗代湖湖畔の国指定重要文化財福島県迎賓館(旧高松宮翁島別邸)は、縁側・座敷・床の間が一式となった居住空間が3つ廊下で結ばれている。格式のある松の間、くつろいだ雰囲気の梅の間、趣向を凝らした竹の間とそれぞれ趣を異にしたしつらいがされている。
 山口県防府市の国指定名勝毛利氏庭園にある毛利博物館は、毛利氏本邸の御殿造りである。その2階の客間のしつらえは大名家の格式と財力を示している。
 広間・次の間・三の間と座敷が3つ連なっている。広間正面は東面で向かって右側に畳2枚の床の間がある本勝手となる。床の間南面に付け書院がありここは3畳の広さとなる。床脇に天袋と違い棚、1間幅の縁側が南面を通って3つの座敷に接している。部屋の境には筬欄間、広間の天井は格天井、二の間・三の間の天井は竿縁天井である。天井にはシャンデリアがあり各部屋の格付けがあがるに従って三の間から順に電球の数が増える。
 北九州市の小倉城庭園(藩主小笠原家下屋敷跡)に池泉式回遊庭園に面した書院造りがある。もてなし・思いやりの心を重んじた小笠原流礼法の宗家の書院を再現したもので、上段の間・一の間・二の間・取次の間が連なって約束通りのしつらいとなっている。 
 いずれも一般住宅では及びもつかない代物(しろもの)だが、このような上物を手本に明治以降の一般住宅の座敷もしつらえられたのだろう。現代に伝わる正月の鏡餅、3月の雛人形、五月の座敷幟などは、ハレの日の座敷のしつらいである。
 室空間に格式という空間秩序があることで、間取りや各室の使い勝手が決まる。
 それぞれの家のしつらいは長い年月をかけて培ってきた生活文化であり、そこに日本の住まいの美しさがにじみ出る。
後編につづく Copyright © 2021 野平洋次 )
「しつらい ----- 坪井当貴建築設計事務所 坪井当貴 ----- 」
正しい家づくり研究会会員の設計した「続き間のある家」

 「会津の大家族の家」
 会津地方の大家族のための住宅です。
 3世代4家族が暮らすこの家では、日常生活でも広い座敷が必要です。
 また、地域の恒例行事や年末年始の親族の集まり、冠婚葬祭、祭りのあとの 打ち上げなど、この家では年中多くの人が出入りしています。
 昔ながらの続き間はそのような地域生活を送る上で大変重宝する空間です。
 常に来客を意識したしつらえは、現代の住宅でも生き続けています。

【大家族のための居間座敷】
【地域の行事や、親族の集まりに対応した続き間】
【円形に光が入る窓のしつらえ】
設計担当:坪井当貴建築設計事務所 坪井当貴

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