美しい日本の住まい
座敷 (後編)
「座敷の奥性 書院 ----- 野平洋次 ----- 」
 「美しい日本の住まい」と呪文のように唱えて文字を打ち続け、はや2年が過ぎた。うっかりするとすでに書いたことがまたぞろ立ち現れる。しかし多面的な見方を並べてみることで、住まいの本質が照射されることもある。
 座敷前編で書いたように、「和室」は「畳を敷いた部屋」という理解では滑り落ちてしまう事が多々ある。畳の縁・障子の竪框・天井の竿縁の線がぴたりとそろう寸法体系や、「縁側」「欄間」「天井」など、これまでこのコラムに登場した事柄は「和室」に欠かせない要素である。
 「座敷」については、『客間として使う「座敷」と、もっぱら家族が起居するための奥まった「座敷」とを区別するために、前者を「表座敷」、後者を「奥座敷」と呼ぶ』という解釈があった。ここで奥とはなにかが問題となる。
 空間の奥性については槇文彦「見え隠れする都市」(1980)で考えさせられた。
 日本家屋には「表玄関—奥の間」、大名屋敷には「表方—奥方」のように表と奥という対概念がある。奥とは感性に基づく秩序であって、空間のゾーニングだけではない。日本の家屋における奥性はまた外延性の裏返しである。奥座敷を囲む部屋があり、さらにその外に一部屋、玄関、門と外に向かって家屋の空間が延びていく。
 筆者の記憶のなかに明治時代の民家の奥座敷がある。そこは床の間のある6畳間で、当主の書斎であり生活の場として使われていた。家人はその奥座敷を特別視して許可なく立ち入ることはできなかった。奥座敷の隣に襖で仕切られた本勝手の床の間のある座敷8畳があった。ここは来客の接待用として使われていた。この座敷の次の間は中の間と呼ばれ置床と仏壇があった。その隣に8畳の玄関の間があった。つまり玄関の間から座敷の床の間に向かうと、その左手に鍵の手になってあるのが奥座敷だった。この場所は勝手口からも台所からも一番遠い位置にあった。しかしこの奥座敷は、縁側にでると納戸・茶の間につながっており行き止まりではない。住居内は襖を開ければ一回りすることができた。
 この民家は福岡県にあったが、近年新潟県で同じような座敷のある明治時代の民家に宿泊する機会があった。玄関を入ると仏壇のある8畳間が頑丈な四本柱に囲われて作られている。枠の内造りとも言われる豪雪地域の軸組である。その部屋の隣に本勝手の床の間を持つ座敷8畳がある。そしてその左にまた床の間を持つ座敷がある。この場所をこの家では鍵座敷と呼んでいたが前掲の奥座敷と同様の位置にある。
 どんずまりではない奥に座敷である。そこは滅多に家人の立ち入ることのない場所である。
 座敷童(ざしきわらし)は東北地方に伝わる妖怪で、その家の奥座敷に出る守護神ともいわれている。家の奥にはその家の魂が宿っていると家人は信じている。照明の消された奥座敷は闇だまりとなり、境界線の見えない小宇宙となって現れる。
 見え隠れする奥、その家の象徴としての奥座敷が日本家屋にはある。
 東京の奥座敷といえば箱根、大阪の奥座敷といえば有馬温泉など、各地方にはその地方の奥座敷と言われる温泉街があったりする。ネットで座敷と探せば居酒屋の和室の席がでてくる。
 洋室に対する和室という対概念ではあまりにも単純化しすぎる。「和室」「座敷」「和風建築」と日本建築を巡って言葉が踊っている。鉄筋コンクリート造住宅の中に1室だけある「和室」をもって日本建築を語ることはできない。
 和室のない家に住む人が過半を超えたといわれている。和洋折衷は日本文化の宿命だが、あるスタイルが完結するまでには絶え間ない創造行為が求められる。
 現代の一般住宅にあって、日本家屋という文化、技法をわきまえた上で日本家屋の持つ特質を具現化しようとすれば、現代に適合する手法を追求しなければならない。その課題が現代の「和室」という言葉に含まれているとするならば、「和室」の存在する意義は大きい。
 「和室」についてリフレームが必要となってきた昨今である。
前編を見る Copyright © 2021 野平洋次 )
「座敷の奥性 書院 ----- HAN環境・建築設計事務所 南澤圭祐 ----- 」
正しい家づくり研究会会員の設計した「久我山の家」

  「久我山の家」は生まれ育った建主様のご実家の建替えとして計画され、
 また、地域に開き昔ながらの「ご近所付き合い」を大切にした住まいです。
 道路から直接中庭からアプローチできるデッキテラスは、気軽にご近所の方が集まり「世間話」を楽しむことができる空間としています。
 室内にも玄関先で気軽に「世間話」ができる小さな3帖程度の「座敷」のような空間を設けました。
 また、ご実家で使われていたガラスや雪見障子を再利用して暮らしの記憶を継承しています。
「生け花」や「お茶」を楽しんだり毎日の暮らしの中で欠かせない場所になっています。

設計担当:HAN環境・建築設計事務所 南澤圭祐

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