美しい日本の住まい
囲い (前編)
「生垣 ----- 野平洋次 ----- 」
平安時代、地方には垣内(かいと)と呼ばれた私有地があった。その領域は川や溝、畦(あぜ)道などで区切られるとともに、領地の仕切りを示す垣が作られた。高貴なお方の屋敷は寝殿造りで、築地(ついじ)(土造の塀)で囲った屋敷の内部に別天地がつくられた。この頃の庭の作りにはすでに作法があり、平安時代中期に編纂された「作庭記」では、自然の風景を尊重する事を基本とし、石の立て方・滝・遣り水・樹木・泉などの作り方を示している。
現代の住宅地で敷地領域を囲うものに生垣(いけがき)がある。
竹・草花・樹木に手を加えて造形した囲い垣は、さりげない境界を創り出し、内と外を仕切る障害物であるにもかかわらず心が和む。樹木の生垣は防風・防火・防塵の役割も果たす。
冬でも真っ青でまっすぐに伸びる柾(まさき)の生垣は各所で見られる。若葉の頃、散歩道の1葉を失敬して子供達と草笛で遊んだことがあった。剪定に強い柾の生垣はきれいに刈り込まれて化粧直しをする。
金目黐(かなめもち)は春に、満天星(どうだん)ツツジは秋に、椿は冬に色づいた生垣が楽しめる。枳殻(からたち)や柊(ひいらぎ)は枝や葉にトゲがあり触ると痛い。
梔子(くちなし)・翌桧(あすなろ)また樫(かし)・珊瑚樹(さんごじゅ)など複数の樹種を組み合わせた混ぜ垣はそれぞれに風景を作り出しその場所の特色となる。
街の風情を醸し出し季節を知らせる生垣がある。
筆者の街歩きのなかで最も印象深い生垣は、大刈り込みを施した鹿児島県知覧の集落である。混植した樹木の枝葉をひとつの植栽の塊として、一定の形と大きさに刈り込んだものを大刈り込みという。
知覧集落を初めて訪ねた時、その見事さに圧倒されて写真撮影に夢中になっていると住人から一言かけられた。「手入れが大変なので寄付をお願いします」。重要伝統的建造物群に選定されたとはいえ、生垣や庭園の維持管理には経費がかかる。旅人の無礼を恥じた。
知覧の重要伝統的建造物は南北約200mの道に並ぶ。道幅は約4m、たたきのように突き固めた路面所によっては石畳の路面の両側に屋敷がある。各戸と道路の境界には高さ約1.2mで揃えられた石垣が築かれて道筋を作っている。この石垣の内側に一列に植えられた中高木の犬槙(いぬまき)の枝葉が密集し石垣を覆いグリーンベルトをつくる。さらに2列目に高木となった犬槙がまばらに並ぶ。この枝葉の密集を造形的に大刈り込みしている。上部を狭く下部を厚くして上端はカマボコ型に刈り込む。大波のようなうねりがあるかと思えば、端正な直線もある。
大刈り込みは京都の庭園が本家本元で小堀遠州の得意技ともいわれる幾何学模様である。鹿児島の地にもその文化は及んでいた。江戸時代参勤交代で見てきた都の雅な庭園を模したのだという。
生垣は道行く者の目を楽しませてくれる。
しかし現代では、枯葉が飛び散る生垣は近隣の家や通行人から苦情がくる。生垣の主にとっては「新緑や花をさんざん楽しんでもらったのに」と思いつつも肩身が狭い。生垣からコンクリート塀へ改修したくなる。するとそんな無粋なことはやめてほしいと生垣保存の要望が出る。近隣住民が力を合わせて落ち葉をかき集めるなどという運動がおきる。いい気な者だ。
集合住宅が過半の都市部では、もはや住まいは土着的なものではなく住み変るものである。住まいは不動産から流動する資産となっている。住む土地への愛着も薄れている。庭や生垣などを手入れして住まうことは面倒の極みとなる。
しかしながらいかめしい門構えや囲いは、町を行く人々に心地よいものではない。住む人の心意気を乗せて季節の移り変わりを運んでくる生垣に出会うと、回り道をしてもまたその前を通りたくなる。
現代の住宅地で敷地領域を囲うものに生垣(いけがき)がある。
竹・草花・樹木に手を加えて造形した囲い垣は、さりげない境界を創り出し、内と外を仕切る障害物であるにもかかわらず心が和む。樹木の生垣は防風・防火・防塵の役割も果たす。
冬でも真っ青でまっすぐに伸びる柾(まさき)の生垣は各所で見られる。若葉の頃、散歩道の1葉を失敬して子供達と草笛で遊んだことがあった。剪定に強い柾の生垣はきれいに刈り込まれて化粧直しをする。
金目黐(かなめもち)は春に、満天星(どうだん)ツツジは秋に、椿は冬に色づいた生垣が楽しめる。枳殻(からたち)や柊(ひいらぎ)は枝や葉にトゲがあり触ると痛い。
梔子(くちなし)・翌桧(あすなろ)また樫(かし)・珊瑚樹(さんごじゅ)など複数の樹種を組み合わせた混ぜ垣はそれぞれに風景を作り出しその場所の特色となる。
街の風情を醸し出し季節を知らせる生垣がある。
筆者の街歩きのなかで最も印象深い生垣は、大刈り込みを施した鹿児島県知覧の集落である。混植した樹木の枝葉をひとつの植栽の塊として、一定の形と大きさに刈り込んだものを大刈り込みという。
知覧集落を初めて訪ねた時、その見事さに圧倒されて写真撮影に夢中になっていると住人から一言かけられた。「手入れが大変なので寄付をお願いします」。重要伝統的建造物群に選定されたとはいえ、生垣や庭園の維持管理には経費がかかる。旅人の無礼を恥じた。
知覧の重要伝統的建造物は南北約200mの道に並ぶ。道幅は約4m、たたきのように突き固めた路面所によっては石畳の路面の両側に屋敷がある。各戸と道路の境界には高さ約1.2mで揃えられた石垣が築かれて道筋を作っている。この石垣の内側に一列に植えられた中高木の犬槙(いぬまき)の枝葉が密集し石垣を覆いグリーンベルトをつくる。さらに2列目に高木となった犬槙がまばらに並ぶ。この枝葉の密集を造形的に大刈り込みしている。上部を狭く下部を厚くして上端はカマボコ型に刈り込む。大波のようなうねりがあるかと思えば、端正な直線もある。
大刈り込みは京都の庭園が本家本元で小堀遠州の得意技ともいわれる幾何学模様である。鹿児島の地にもその文化は及んでいた。江戸時代参勤交代で見てきた都の雅な庭園を模したのだという。
生垣は道行く者の目を楽しませてくれる。
しかし現代では、枯葉が飛び散る生垣は近隣の家や通行人から苦情がくる。生垣の主にとっては「新緑や花をさんざん楽しんでもらったのに」と思いつつも肩身が狭い。生垣からコンクリート塀へ改修したくなる。するとそんな無粋なことはやめてほしいと生垣保存の要望が出る。近隣住民が力を合わせて落ち葉をかき集めるなどという運動がおきる。いい気な者だ。
集合住宅が過半の都市部では、もはや住まいは土着的なものではなく住み変るものである。住まいは不動産から流動する資産となっている。住む土地への愛着も薄れている。庭や生垣などを手入れして住まうことは面倒の極みとなる。
しかしながらいかめしい門構えや囲いは、町を行く人々に心地よいものではない。住む人の心意気を乗せて季節の移り変わりを運んでくる生垣に出会うと、回り道をしてもまたその前を通りたくなる。
(後編につづく Copyright © 2022 野平洋次 )
「生垣 ----- 有限会社みゆき設計 吉川みゆき ----- 」
地価や建ペイ率が高い都市部では、グリーンを設けることよりも住まいを最大限に建築することの方が優先されがちです。グリーンがなければ、コンクリートやアスファルトに囲まれた街になり、夏はとっても暑くて冬はとっても寒くて健康で快適な生活は営めそうにありません。
都内で1,000 平方メートル以上の敷地に開発や建築等を行う場合は、条例により「緑化計画」が必要になることから、大型の集合住宅(マンション等)周辺には生垣を設けることがあり、街並みにうるおいを与えてくれています。
人々の生活は、住まいだけではなく周辺環境にも配慮して緑化の工夫をしたいと思います。
野平先生が最も印象深いとお話された鹿児島県知覧の集落には、とても美しい通りがありましたのでご紹介いたします。
担当:有限会社みゆき設計 吉川みゆき