美しい日本の住まい
襖 (前編)
「襖は壁である」
 野平洋次
 季節の変わり目に調度品の入れ替えをしようと、天袋から物を取り出した瞬間、ドスンという音がした。何事が起きなのかしばらくとまどって見渡してみると、フスマに穴が開いているのを発見した。大きな衝撃音の割には小さな穴だったが、天袋から箱が滑り落ちていた。
 何事かと家族が集まってきて、襖の穴を指差す筆者に非難ゴウゴウ。
 それにしてもフスマは丈夫なものである。これが障子だったら紙は破れ、組子の桟も折れていたにちがいない。
 フスマは漢字では襖。衣編の文字だ。裏地のある綿入れの寝具(衾(ふすま))と通じる。そもそもは襖障子(ふすましょうじ)といい、建具障子の一種だった。表面と裏面に布や和紙、唐紙を貼った遮光性の高い障子で、明り障子(現代の紙障子)と同じ寸法形状である。
 丈夫な襖を解剖してみよう。
 解剖するためにはまず襖の縁(ふち)を外さなければならない。綺麗に漆塗りで仕上げた化粧縁であるから丁寧に扱う。
 襖の縁は上等な仕事では隠し釘でとめてある。L字型に折れ曲がった断面が四角の鉄釘で、両端が尖っている。合折釘(あいおれくぎ)(折れ合い釘とも)という。
 襖紙は極上の襖で7層、上等5層、並で3層に紙を重ねて貼ってある。和紙は貼り重ねると強い。15〜20層にも重ね貼りして柿渋を塗った伝統工芸品「油(ゆ)団(とん)」は優れた夏の敷物である。
 襖紙の上貼りは「鳥の子」紙などの上質紙を使う。
 「鳥の子」については学生の頃、大先輩が住宅現場で当然のことのように「襖紙は“鳥の子”」と指示していたのを見て、あこがれた記憶がある。初心者にはちょっとした専門用語が高度専門知識に聞こえる。
 鳥の子は強靭で耐久力がある。鶏の卵の色に似ているから鳥の子と呼ぶというが、白亜のものから淡黄色のものまである。
 上貼りを剥がすと、下貼りが出てくる。腰の強い和紙(美濃紙・石州紙・細川紙など)が使われる。反古紙(ほごし)(書き損じたりして不要になった和紙)で済ますこともできる。
 下貼りは幾層にもなっている。
 下貼りを上から順に剥がしていくと、まず半紙(書道用全懐紙半分のサイズ)全面に糊をつけてベタ貼りする「清め貼り」がある。
 上等なものでは清め貼りの下層に「蓑(みの)貼り」がある。体を覆うように茅(かや)や藁(わら)を重ねて羽重(はがさね)に編んだ雨具「蓑(みの)」に例えた呼称である。紙片の上部にだけ糊をつけて、襖の下から順番に重なり合うように上に向かって貼っていく。鳥の羽毛のように重なり合う貼り方である。丁寧な襖の蓑貼りではこれを繰り返えし繰返しやっている。
 並の仕事では、清め貼りの下の層では半紙の周辺に糊をつけ「袋貼り」にした簡単なものである。
 下貼りの最下層は、襖の骨に糊をつけ美濃紙などの強い和紙をベタ貼りした「骨しばり」となる。
 <骨しばり→袋貼り又は蓑貼り→清め貼り→上貼り>と順番に貼り重ねた襖は、見た目よりはるかに丈夫な建具であることがわかる。
 丈夫な襖は柱間に建て付けた間仕切り壁となって機能する。
 襖壁といわれるものがある。中敷居を通し柱間上半分が開閉する襖、下半分が壁となる。
 締め切った室内の換気は襖の鴨居の上の欄間の役割である。明かりを取るためには、襖の真ん中をくり抜いて障子をはめ殺しにした源氏襖がある。金箔銀箔を貼った襖や白色の和紙の襖は外光を照り返して室内を明るくする。
 木造軸組構造にあって、襖は几帳・屏風とともに障壁の役割をする。
後編へつづく(Copyright © 2020 野平洋次)
「襖は壁である」
望月建築アトリエ 望月 新
正しい家づくり研究会会員の設計した
-----「母屋と離れの家」-----
母屋と離れの家
 平屋に寄棟の大屋根を掛けた「母屋と離れの家」では、リビングから続く和室があり、その間仕切りを襖としてます。この襖はすべて取外して、押入れに収納できるように設計してます。壁として機能とその軽さを利用した例になります。
設計担当:望月建築アトリエ 望月 新
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