美しい日本の住まい
こたつ (前編)
「コタツが伝える住まい方」
 野平洋次
 コタツは「炬燵」と書く。などと言いながら、炬燵布団にくるまってウンチクを孫たちに語って聞かせる。こんな正月の一コマがあった。
 「炬燵兵法」ということわざがある。コタツにあたりながら剣術などの武芸について論じ合う様子、畳の上の水泳練習のようなことだ。さらに「炬燵弁慶」という言葉もある。内弁慶、つまり安全安心なところで伝説に出てくる豪傑武蔵坊弁慶のように振る舞うことだ。800年余り前の人物がコタツを通して語り継がれてきた。
 などと思いを巡らしているうちに、我がコタツ体験記をたどってみたくなった。
 生れ育った北九州の家にコタツがあった。昭和時代の記憶だ。日本海側の北九州は気候的には山陰地方の延長で、雪も比較的多く厳しい寒さの冬があった。生家では住まいの中心にある畳8帖の部屋の片隅に45cm四方の小さな火炉をつくり、炉の縁の上に木製のヤグラを置いて布団をかけた。これが我が家のコタツだった。これは出雲地方に伝わるコタツの形式という記事を最近読んだ。
 熱源は炭火で灰をかぶせ火力を調整した。コタツに火を入れるときは、台所で使用したあとの火力の弱まった炭火を十能(じゅうのう:金属製の小さなスコップのようなもの)で運んで種火とし、消し炭(炭の燃え残り)を継ぎ足した。
 綿の入った厚い着物(ちゃんちゃんこ)を羽織った姉が一人でコタツに入ってると、そろそろ交代ともう一人お姉さんが入ってきたりした。四方から4人も入れば布団がめくれて熱を逃がしてしまうようなコタツだった。コタツで丸くなって動かないでいると無精者としかられた。
 春になるとコタツの布団とヤグラは片付けられ、火炉に蓋をして畳が敷かれ普通の8帖間となった。コタツを使うのは12月から2月、延べ2ヶ月ほどだった。
 1950年代のある年の冬、近所の料亭が大火事で全焼したのを目の当たりに見た。原因は従業員の部屋にあったコタツの火の不始末ということだった。木造の家で直火の暖房をするわけだから、常に火事の危険とは隣合わせである。火の用心は冬の住まいの一番の課題であった。
 その火事のあとで我が家に掘りコタツができた。畳半畳の大きさで深さは60cmもあった。熱源は最初はタドン(炭団)だった。その後に電気ヒーターとなった。
 1970年代、生家から独立した筆者の新居は電気コタツだった。それもいつのまにか仕舞い込んで使わなくなった。コタツを囲んでの家族団らんがなくなった。
 コタツについて、1936年ドイツの建築家ブルーノ・タウトは以下のように解説している。
 日本では冬の寒冷を防ぐ方法に、太陽の温熱に変わるものとして真っ赤におきた炭火がある。炭火を熱源とするイロリ・コタツ・アンカ・カイロなどは、長く熱を保つし経済的である。室内の空気を温めるものではなく自分の身体だけを温めるものであるから、部屋の空気を温めるときに浮遊する塵芥で空気が濁るようなことはない。世界諸国の北部地方は家屋をもっぱら冬の気候に順応させている。日本の冬も短いものではないし夏向きだけを考えるのは間違いだが、この国の太陽はイタリアや北部アメリカなどと同緯度にあり暖かい。日本の家屋と生活はこの国の風土に適応するように太陽と炭火で発展させた。(ブルーノ・タウト著、篠田英雄訳「日本の家屋と生活」岩波書店1966<pp91太陽と炭火>の要約)
 現代、コタツの炭火は電熱ヒーターに変わり、安全を手に入れて多様な形態を生み出している。
 コタツヤグラはコタツテーブルというおしゃれな家具となり、冬はコタツとして夏はテーブルとして使うものとなった。コタツを構成する敷き布団・テーブル(やぐら)・コタツ布団・天板・ヒーターなどもバリエーション豊富に売られている。
 リビングコタツ・ダイニングコタツなどと使い分けるとともに、「一人用こたつ」というものも出回っている。電気毛布に包まったような「着るコタツ」というものもある。可動なコタツは便利な生活家電としての位置を確保している。
  日本の暑い夏向きの家に対応する暖房設備として、日本家屋の自在さ、融通無碍の空間をもたらすコタツがある。
後編へつづく(Copyright © 2020 野平洋次)
「コタツが伝える住まい方」
HAN環境・建築設計事務所 冨田 享祐
正しい家づくり研究会会員が改修した
-----築42年「多摩丘陵の家」-----
「多摩丘陵の家」掘りコタツの実例
 改修工事で掘り込み部分の断熱補強、電気式熱源への交換を行い快適安全で魅力を高めた掘りコタツ。低い視線が庭との一体感を創り家の中で最も心地よい居場所となった。テーブルを取り外して床にすることも可能だが夏も冬も掘りコタツが大活躍している。
室内から庭を望む様子。
 掘りコタツは半畳2つを一つのテーブルで覆い、テーブル板、その下の脚付きコタツ台は簡単に取り外しができる。
掘り込み部分は不燃性の断熱ボードで囲み隙間もしっかりふさいだ。
庭からの風景。
 南東のL型掃出し開口部に面し庭と一体感のある掘りコタツ空間。
午前中は暖かい日差しも届く。
設計担当:HAN環境・建築設計事務所 冨田 享祐
^