美しい日本の住まい
こたつ (後編)
「掘炬燵(こたつ)と掘座卓が舞台をつくる」
 野平洋次
 火のまわりに人が集まる。焚き火は庭、囲炉裏(いろり)は板の間、大きな火鉢(大名火鉢)は座敷となるが、もう一つ座敷には大炬燵(こたつ)がある。囲炉裏を床の下に掘り下げ、足を入れる櫓(やぐら)を組んで座卓とし布団をかけた掘炬燵だ。座敷に固定された暖房設備である。この工夫は江戸時代からある。室内の大道具として存在感を増し、暖房が欲しい季節の接客、団欒の舞台となる。
 日本の一般住宅で掘炬燵が見られるようになったのはいつの頃からだろう。明治時代に日本を3度も訪れたエドワード・モリスの書いた「日本人の住まい」には火鉢はあっても炬燵の記述見当たらない。
 筆者は建築家清水一(1902〜1972)の備忘録に、「堀ごたつバーナード・リーチ?」というメモを見たことがある。
  イギリス人の陶芸家バーナード・リーチ(1887〜1979)は、再来日した1909年に東京上野桜木町に自宅を構えた。そこに腰掛け式の掘炬燵があったと言う推察である。それがどんなものであったかは知らない。しかし陶芸を通じてリーチと親交のあった河井寛次郎(1890〜1966)が京都五条坂に建てた住宅(1920)
にも掘炬燵がある。ここからリーチ宅の掘炬燵を想像するのも間違った方法ではなかろう。京都市五条坂にある河井寛次郎記念館を入ると板の間と小上がりの畳の間に囲炉裏があり、さらにその奥の畳の間に掘炬燵がある。畳1枚の大きさで炉が切ってある。座るとちょうど足が炉の底に着く高さとなっている。夏は布団を外せば立派な座卓である。炉の側壁には建物の床下につながる開閉式の換気口があり、冬は炬燵の暖気を床下にも流し、夏は床下から冷たい風を室内に呼び込む事ができる仕掛けとなっている。
 1939年発行の主婦の友社「住宅の建て方」に「新案の炬燵」が紹介されている。畳座敷に持って来いの暖房装置として、掘炬燵の詳細が記されている。畳半畳の大きさで、底は煉瓦(れんが)、炉の壁はコンクリート、炉の代わりに大便(だいべん)壷(つぼ)を据えれば費用が安くなると勧めている。
 坐式から椅子式への起居様式の変化が日本住宅の近代化の特徴とされる。そこで座敷に椅子式起居様式を持ち込むことができる掘炬燵が活躍する。座敷のインテリアは目の高さに合わせて調整するから、床を掘り下げた椅子式の姿勢でも、畳に座っているときの目線と高さが変わらないことは重要なことである。
 掘炬燵の熱源は行火(あんか)から電気ヒーターそして床暖房へと進化し、安全で快適なものになって今に至っている。
 表記も炬燵(こたつ)から火燵(こたつ)そして「こたつ」とだんだん身近かなものとなる。炬燵の「炬」には、たき火の意味がある。炬の字のつくり「巨」は矩形を示す。炬燵の「燵」は日本で作られた文字で部首「火」のつくり「達」には、至る・届くの意味がある。なんとなく炬燵(こたつ)の成り立ちがわかる文字表現である。
 この重宝な掘炬燵の形式は、今や掘座卓の名称を貰って夏冬を問わず和風居酒屋などではなくてはならないものとなっている。もはやコタツと言うよりは掘座卓に暖房装置をつけたものという方がふさわしい。
  居酒屋だけではない、東京赤坂の迎賓館にある和風別館にも大きな掘座卓がある。1974年に外国からの賓客を日本伝統の建築と庭園と料理でもてなす場「遊心亭」として、清らかな意匠を唱えた谷口吉郎(1904〜1979)が設計した。この「遊心亭」は現在石川県金沢市で見ることができる。谷口吉郎の実家跡に建てられた「谷口吉郎・谷口吉生記念金沢建築館」の2階に再現され公開されている。
 素材の取り合わせ、精緻な木工術による納まり、外の景色の取り込み方、何より美しいプロポーションが魅力である。その空間の中に漆塗りの天板が黒光りする掘座卓がある。
 コタツは500年前からみられるという。行火(あんか)に布団をかけたものから温熱床暖房の掘座卓に至るまで、大きさも形態もさまざまに工夫され進化してきた。
  日本家屋に調和する暖房設備コタツが作り出す室内空間と住まい方がある。
前編を見る(Copyright © 2020 野平洋次)
「掘炬燵(こたつ)と掘座卓が舞台をつくる」
建築家:谷口吉郎
建築家:谷口吉郎が設計した迎賓館和風別館として建設された
-----「游心亭」-----
著者:正しいい家づくり研究会メンバー 松坂亮一
「游心亭」掘りコタツの実例
設計:谷口吉郎
 赤坂離宮の迎賓館和風別館「游心亭」は東宮御所などの設計で知られる建築家:谷口吉郎の設計により昭和49年に建設されました。迎賓館本館で執り行われる行事や接遇が様式なのに足し、和風の意匠と純日本のおもてなしで諸外国の来賓をお迎えするための施設として利用されます。
主和室の風景
 主和室は47帖の畳敷きの広間で、来賓を伝統的な和食でおもてなしする際は、中央の落とし床を活用してテーブルを掘こたつ式にすることができます。
 主和室では、池に差し込んだ太陽の光が反射して天井や柱に水のゆらぎが映し出されます。
迎賓館 赤坂離宮のHPより
庭からの風景
 日本の家と庭が持つ美を重視し、職人たちの先例された手仕事が見られます。
 庭園や証明、調度品にいたるさまざまな部分で、巧みに和モダンを表現しています。
 なお、『迎賓館 赤坂離宮』は一般に公開されていますので、是非ご参観してみてください。
URL: https://www.geihinkan.go.jp/akasaka/
迎賓館 赤坂離宮のパンフレットより
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