美しい日本の住まい
欄間 (前編)
「和室の明り採り」
 野平洋次
 日本の住まいを語るこのコラムだが、押入・襖と続いて今回は欄間を取り上げた。これらの言葉を古臭さ!と言った仲間がいるが筆者もそう思う。特に欄間は現代住宅では見かけることが少なくなった。近代数寄屋といわれるもので欄間なしで天井までの建具を工夫したものがある。ついでに長押(なげし)も見かけなくなり、内法の線を大切にする伝統のかくし味は伝承されにくくなった。
 欄間とは、天井と内法鴨居との間や出入り口の上部に欄間縁(らんまぶち)を取り付け、障子や格子、または単純化された図形の透かし彫りや絵様(えよう)彫刻をはめ込んだもののことである。
 欄間の欄を辞書で改めてみる。
 ①人が前に出るのをさえぎり止める ②てすり ③牛馬を飼う檻 ④境界線の中 ⑤線で囲われた一区画、などの意味がある。欄外とは輪郭の外のことだ。
 欄間の「間(ま)」は、間面記法・間尺・日本間・間隔・空間などの「間」である。あの磯崎新は、日本の「間(ま)」の概念は英訳できない、ギリシャの哲学者プラトンのいう「場」に通じる、「間」こそ日本独自の美学の基礎、と言っている。(建築における「日本的なもの」, 2003年,新潮社)。
 だんだん筆者の手に負えなくなってきた。一息入れ、かつて見た欄間を思い出しながら手持ちの写真を並べてみる。
 しっかりした木造住宅で、半間(約90cm)巾の縁側には竿縁天井が張ってある写真がある。縁側の鴨居と廊下天井の間を埋めるために取り付けた欄間は明かり障子となっている。雨戸を閉めてもこの欄間は光を通す。1尺(約30cm)弱の欄間には丈夫な組子を密にした枡組障子が入っている。これでは盗人も入れまい。軒が深く雨掛かりにはならない。
 闇夜の中でこのような欄間からもれる明かりに、人家の温もりを感じたことがあった。
 あれこれ欄間の写真を見ていると、1枚の思い出深い写真がでてきた。筆者若気のいたりの欄間の写真である。30年も昔のことになる。在来木造を学ぼうと張り切った住宅設計で、離れに床の間のある客間8畳をつくった。東と南につけた縁側と室内を区切る障子の上にある欄間障子は、縦繁で桟をそろえた。欄間障子から入る日照は天然の天井板に照り返されて部屋全体を明るくした。
 問題は夜の照明だった。和室の照明は難しい。電灯のない時代の和室の照明は床置きの行灯(あんどん)や燭台(しょくだい)で、その環境で和室のデザインは洗練されてきたわけだから、部屋の真ん中に天井から照明器具をつるすことをためらった。思い切って天井照明をやめて縁側の天井に1間間隔でダウンライトをつけた。締め切った欄間障子が照明器具の役割をした。床の間上部の間接照明と行灯形式の小さな照明器具を室内に置いた。適度な陰影に設計者は満足した。欄間があればこその仕業だった。
 竣工から間もなく代替わりした若い家主は、離れの座敷の天井の真ん中に無粋な昼光色の蛍光灯を吊り下げた。「もっと明かりを」という理由だった。「夜は暗くてなぜ悪い」と毒吐いてみたが後の祭り・・・。
 ともあれ明かり採りとなる欄間がある。
後編へつづく(Copyright © 2020 野平洋次)
「和室の明り採り」
有限会社みゆき設計 吉川みゆき
正しい家づくり研究会会員の設計した
-----「八雲台の家」-----
八雲台の家 欄間空間の実例
 8畳和室と広縁との間は障子で空間を仕切れるようにしていますが、欄間部分は、何もはめ込まない空間です。
 欄間を空間にしたのは、天井の連続性を利用した視覚的な広がりを常に感じて頂きたかったことと8畳和室と広縁との温度差をなくし、障子を介した柔らかい光をお部屋全体に取り入れてすがすがしく生活して頂きたいと考えたからです。
 また、将来ケアーが必要になったときに広縁をベッドルームとし、和室をリビングとしてご利用いただくことをイメージして 双方のお部屋が、欄間によって丁度良い区画になると思いました。
 竿縁天井、長押や内鴨居、無垢柱、障子に襖、京壁など、伝統的な和室は、経年劣化ではなく、時とともに味わいを深めます。それと同じように住まう方のライフスタイルに合わせた欄間空間も時を楽しむ要素になるのではないでしょうか。
設計担当:有限会社みゆき設計 吉川みゆき
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