美しい日本の住まい
欄間 (後編)
「外延性と装飾性」
 野平洋次
 「シンプル欄間で空間に一体感を」という見出しが、注目している住宅作家の作品集(2018年)で目に止まった。間仕切り障子の上部の隙間には何もない。これがシンプル欄間である。空気が流れて行き、一体となる空間がある。
 屋内で空気のつながる連続空間は、吹き抜け、スキップフロアー、階段、中二階、ロフトなどを作り出してきた。筆者が受けた建築設計教育の中で一番最初に覚えた設計手法が「連続する空間」だった。
 では連続する空間の行き止まりはどこにあるのか。一体となった空間は一室なのか。どこからどこまでが室の境界なのか。ワンルーム住居で欄間はいかに作用するか。と考えてくると欄間はグレーゾーンである。
 住空間を表す言葉に、ムロ(室)、クラ(倉)、トノ(殿)、イエ(家)、ヤド(宿)などがある。「古代建築のイメージ」(木村徳国,NHKブックス,1979年)では、ムロ(室)は、戸口が一つしかない閉鎖的なものとされている。無戸室・大室・石室・氷室などの関係語が古事記や日本書記の中から抽出されている。室は竪穴式住居の空間に通じるワンルームを意味していたようだ。
 畳敷きの部屋がいくつも連なった書院や民家には、日常は襖を開け一室のように見える連続空間がある。その襖の上には間越欄間(まごししらんま)がある。
 書院の間越欄間は筬欄間(おさらんま)が定番である。細い竪子を櫛のように密に並べたもので、次の間(相の間・二の間)の天井が透けて見え、広々とした一体空間が生まれる。
 欄間の大きさは天井の高さ・部屋の大きさで決まる。高い天井では、内法上部にある細くて長い蟻壁(ありかべ)がある。欄間敷居と内法長押の間の蟻壁は柱の見付け1本以内で天井廻り縁と欄間鴨居の間の蟻壁は1本半程度がよい、欄間の敷居鴨居ともに、内法材の敷居鴨居の8分取り程度とし見付けを薄く仕上げる、と伝えられている。
 8畳間程度の欄間には蟻壁はつくらずに、欄間敷居は内法長押の上端につけ、欄間鴨居は天井廻り縁の下端に突き付けて欄間を広くとる。
 連続する空間の行き止まりはどこにあるのか。天井面の連続は、欄間を作らず天井から襖鴨居までの下がり壁(小壁)がある位置で一区切りができる。その下の襖に障壁画があれば、これはもう明らかに室の区切りの境界線である。
 奥座敷→次の間→座敷→縁側→屋外と、空間が外へ外へと延びていく外延性は日本建築の特徴である。この特徴は建具と内法の上部にある欄間と小壁で表され、屋内の重心から外に向かう空間秩序を演出する。
 竹の節欄間というのがある。
 御殿や社殿で見られる内法長押の上部に取り付けられた、欄干のようなものである。竹の節を模したように彫刻した親柱に、手すりのような横木を通し簡単な装飾がしてある。
 この欄間には意味がある。竹の節欄間より奥は高貴な領域であるから一般人の立ち入りはここまで、という境界線を表す。
 このように欄間はある意味を乗せて装飾化されている。格式を表したり連続性を示したり言い伝えを具象化したり結界を示したりする。
 装飾となる欄間彫刻は富山県井波を代表とする伝統工芸として現代に伝わるが、本来は宮大工の仕事だった。絵様(えよう)彫刻は大工の素養の一つである。筆者の知る宮大工Aさんも木を彫るのが好きだ。震災復興で再建した寺院でAさんは「遠くから見て、下から見上げて、見返して、どんな風に見せるか、大工棟梁は建物全体の構成を頭に描きながら欄間を彫る。」と言って、ボタンの花を彫った自慢の欄間彫刻を見せてくれた。
 欄間には日本建築の外延性と装飾性が表れている。
(Copyright © 2020 野平洋次)
「外延性と装飾性」
有限会社みゆき設計 吉川みゆき
正しい家づくり研究会会員の設計した
-----「世田谷の家」-----
[世田谷の家]欄間の実例
 生家の建替にあたり「欄間を再利用したい。」とのご要望があり、解体前に見に行くと慣れ親しんだ彫刻欄間がありました。
解体前に先立って大工さんが丁寧に取り外し、大事に保管して頂きました。灰汁(アク)洗いを施したかったのですが、彫刻に繊細な部分があり破損の可能性があることから、埃を優しく払うことにしました。
 問題は、新居のどこに彫刻欄間を設置するか???にありました。通常は、続き和室の間にある欄間に設置しますが、新居に続き和室はありません。
 考えた結果、和室と廊下との間にある欄間部分に設置して透かしから見える光と彫刻部分の影を楽しんで頂くことを提案したところ快諾して頂きました。
 和室と廊下との間に設置しますので、彫刻欄間の両面に透明のガラスをはめ込みました。このガラスには、和室の冷暖房を廊下に逃がさないことと、劣化による彫刻の破損を防ぐ役割があります。
 完成後、お施主様は大変喜んでくださいました。彫刻欄間のある和室は格式高く造ることが通例ですが、新居に合わせてアレンジしても彫刻が生み出す美しい陰影と心を癒す思い出は変わらないように思いました。
設計担当:有限会社みゆき設計 吉川みゆき
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