美しい日本の住まい
土間 (後編)
「土間玄関・通り庭で構成する日本の家屋」
 野平洋次
 玄関の戸を開けると、内部に土間があり下足を脱ぐスペースと下足箱(下駄箱)があって内と外をつなぐ。  下足の収納だけが目的の玄関では玄関の名がすたる。そもそも玄関とは「幽玄なる関門」に由来する。
 そこで広めの土間玄関として格式を高める。ここは季節の飾り物を置く台をしつらえたり植木鉢をおいたりして、暮らしに彩りを添える場所となる。ベンチや縁台風の腰掛け、椅子テーブルを置いた接客の場にもなる。わざわざ靴を脱ぎ座敷に上がるまでもない客は、玄関先で失礼できる。
 玄関から土間(三和土)づたいに奥の居室につながるのが、昔しながらの町家である。これは現代住居では車椅子生活者にとって便利な間取りとなる。しかし昨今の住居では、玄関は単なる出入り口に過ぎず中に入って玄関戸を締め切れば、そこは浴室の脱衣スペースになる、というところまで合理化した狭小住宅もある。
 一方、畳の部屋の減少に伴なって靴ぬぎをしない室内空間の領域が拡大している。畳床を小上がりにして、それ以外をコルクタイル仕上げにすれば、古い民家で体験した土間の感覚がよみがえる。コルク床が三和土のような活動的な土間的空間となる。
 土間といえば町家の通り土間(通り庭)がある。公開されている奈良屋杉本家(京都市)で江戸時代の町家の姿を見た。
 格子戸を開けて屋内に入ると土間玄関(三和土)である。さらに進むと内玄関があり、その向こうに井戸と竃と洗い場(走り)そして庭戸棚(水屋)がある。走り庭と呼ばれている。ここは屋根裏が見える吹き抜けとなっていて天井がない。漆喰で壁が仕上げられている。煙出しの天窓から光が入ってくる。火袋と呼ばれる空間でカマドがあり煮炊きをする台所である。三和土の土間が光る。さらに土間を奥へ行くと風呂があり、どんづまりに便所がある。家の中を小路が通っている。
 通り庭は吹き抜ける風の道であり、高窓・天窓から降り注ぐ光の庭となる。
 古民家の土間はニワと呼ばれる。そこにある竃(カマド)は頑丈そのものに築かれる。竃はオクドサン、ヘッツイとも言う。左官仕事の高度なものだ。赤塗りの伊勢磨きと呼ばれる“へっつい”を大江戸左官祭りで見た。持ち運びのできる“へっつい”は古道具屋にある。
 土間にへっつい、座敷に屏風をしつらえた古民家は確固たる構成を持っている。動と静、平場と奥、日常と格式という住まいの構成に、出入り口の土間と裏口に抜ける通り庭(通り土間)が大きな役割を果たしている。
 近年の住宅雑誌に、土間に竃とダイニングテーブルを置いた家の紹介があった。2003年に「真の日本のすまい」という提案競技が住宅産業研修財団主催ではじまり7回行われているが、そこでも土間のある暮らしが定番になりつつあった。土間のある玄関や勝手口はもとより、土間ギャラリー、土間にある台所、いろりを置いた土間、土間の家族室、縁側代わりの土間、土間に愛車を置いて同居している家など、土間を暮らしの舞台にする提案は、現在ではいくつも見られる。
 ペットの居場所、植物を育てる場所、光や風を感じる場所となる土間は、風土の中で生きていることを感じさせてくれるものだ。
(Copyright© 2019野平洋次)


「土間玄関・通り庭で構成する日本の家屋」
 HAN環境・建築設計事務所 冨田享祐
正しい家づくり研究会会員の設計した
「畳と土間のある家」
「長野の家」
  ご夫婦と2人のお子さんが暮らす木造2階建ての住まいです。
2階にLDKがあり、1階に縁側的なタタミ空間や玄関土間から続く石張りの主寝室があります。主寝室はタタミ室を通して庭と繋がります。年に数回しか利用しない客間を心地よい縁側空間として日常に取り込む間取りの工夫です。
 土間には熱を蓄える力があり、冬は陽射しを蓄えて夜の冷え込みを、夏は夜の涼気を蓄え昼の暑さを和らげてくれます。
 全面に温水配管を埋め込んだ土間は湯たんぽのように家全体をじっくり温めてくれます。
設計担当:HAN環境・建築設計事務所 冨田享祐
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